お年寄りの歯は
加齢に伴い歯の機能も衰えてくる。
老後を快適に過ごしていくためにも、特に、口腔(口の中)の管理は、しっかりと清潔にしていかなければならない。歯を含めた口腔の機能は、食べ物を噛み砕いたり、飲み込んだり、味覚を感じたり、言葉の発音や呼吸などにも関わっているので、なおさら気をつけたい。
そして口腔は
細菌やウイルスなどに感染する際の経路でもあるので、口腔の機能を十分に保つことは、食事を楽しむだけではなく全身の健康の保持や快適な社会生活を営む上でも、大変、大切な事といえる。

       加齢に伴う歯の変化

歯のエナメル質や象牙質は石灰化が進み歯随腔が狭くなり、歯槽骨(歯を支えている骨)も、もろくなり、上方から減っていき、歯肉が吸収され歯根部が露出する。
食後のブラッシングが最大にして最も手軽な予防法!
又、長年にわたり咀嚼(そしゃく)してきたため、歯は、咬耗(こうもう)や、磨耗(まもう)が進み歯垢や歯石がたまると、歯槽膿漏を起こしやすくなる。お年寄りの歯が抜ける原因の多くは、この歯槽膿漏(歯周病)である。
咀嚼とは
物を噛み砕くこと。
咬耗とは
咀嚼のために歯が磨り減ることで、神経の近くまですりへると、痛みが生じる。
磨耗とは
露出した歯根部が、歯ブラシ等で横にこすられ、へこんだり、欠けたりすること。
歯周病菌によって
体に悪影響を及ぼす事も多々、あるので3ヶ月サイクルで検診を受けて、
歯磨きの方法や歯石のチェック、噛み合わせ、歯茎の状態を
歯科医に診てもらうこと。


      お年寄りの主な歯科疾患

1.歯牙疾患(むし歯、咬耗、磨耗 )
2.義歯不適合
3.歯周疾患
4.歯牙欠損
5.化膿性炎症

      歯以外の病気をもつ場合

1.高血圧 高血圧のひとは、内科で血圧をコントロールしてから治療にかかる。
歯科治療中は、血圧が20-30mmHg上昇するので気をつける。
2.心臓疾患 心筋梗塞の発作後は、しばらく治療を控える。
服用している薬を歯科医に知らせる。
3.胃腸疾患 潰瘍などで出血の見られる人は、治療を控える。
胃液分泌抑制剤(βブロッカー等)を服用していると、口が渇き、
口のなかの菌が繁殖しやすくなるので、注意する。
4.糖尿病 糖尿病の人は、血糖値をコントロールしてから治療する。
血糖値200mg/dl以上のひとは、化膿性炎症を起こしやすいので注意する。
5.肝臓疾患 肝硬変のひとは、歯周炎や出血が起きやすくなるので注意する。
歯周炎や出血を防ぐために、口の中を清潔ひ保つようにする。


病気を持っていないと思っているお年寄りは
他の病気に気ずかない場合もあるので歯の治療を受ける前に、検診を受けることをお勧めしたい。
口の中の機能低下は
全身の健康状態と非常に密接に関係しているので、普段から口の中の衛生と、全身の健康を保つことが大切。


      歯の病気

    む し 歯
口腔内の細菌は
歯に付着した食物の食べかすを材料として酸を作る。
歯の表面形成しているエナメル質の成分が、口の中に溶け出し(脱灰)、ある種の細菌(主にミュウタンスレンサ球菌)と食物の中のしょ糖が加わるとグルカンという水に溶けない糖が形成される。そして、このグルカンによって、虫歯菌をはじめとする様々な、細菌や唾液成分が更に付着し、歯垢(プラーク)ができる。
歯垢(プラーク)内の細菌が

糖質を代謝して酸を発生させる。この酸が歯のエナメル質を攻撃して、カルシウムとリンが溶け出し、虫歯が発生する。
 虫歯をシャットアウトする方法は
細菌と糖が手を組む時間を与えないこと。歯垢(プラーク)が形成されるには、最低8時間は必要であるのでやはり、食後のブラッシングが最大にして最も手軽な予防法!

(漢方薬)

 虫歯は自然に治癒することはないので、歯科治療をするしか方法はない。
 歯痛、抜歯後の疼痛などには、立効散用いられている。

立効散

   処方: 細辛 2.0   升麻  2.0 防風 2.0 甘草  1.5   竜胆 1.0
    歯周病(歯槽膿漏)
歯周病とは
の周囲の炎症が進んだ状態のこと。歯の周囲の歯肉や歯槽から膿が出て、はぐきは紫赤色に腫れ、出血しやすくなる。歯石の刺激によって起るものや、動物性食品の過剰摂取、全身的な慢性疾患などにやっても発生する。

(漢方薬)

歯周病には
局所の処置として西洋薬を用いるのもよいが、証を腎虚と考え、腎虚を改善する八味丸,六味丸を用いてみる。
又、体質あるいは、全身症状を改善する漢方処方の補中益気湯、柴胡桂枝湯を用いる方法も良いかもしれない。
実証の人には
黄連解毒湯を用いる
虚証の人には
十味敗毒湯などを用いてみたい。

歯肉が膨張して、膿汁が出て、痛みがあるときは
排膿散
を用いると、気血の凝滞を疏通し、排膿の効果がある。

排膿散

  処方:  枳実  5.0  芍薬  5.0  桔梗 2.0

黄連解毒湯

  処方:  黄連 1.5   黄ギ 3.0   黄柏 1.5 山梔子 2.0

         口腔の病気

    口 内 炎
口腔の粘膜は炎症をおこしやすく、ここに起った炎症を口内炎と言う。

(原因)
口腔の中には、様々な種類の細菌が、互いにバランスをとりながら共存している。
また、唾液や口腔粘膜自体に免疫作用があり、特定の細菌が異常に繁殖するのを妨げている。しかし、体力の低下などが原因で免疫力が弱まって特定の細菌が繁殖してこのバランスが崩れ、口腔粘膜が細菌に感染して炎症が起る。
その他、合わない入れ歯、歯石、虫歯、充填物、並びの悪い歯、食物中の異物などがあげられる。これらの刺激に細菌の作用が加わり炎症が起る。
又、胃腸疾患、高熱を出した時、妊娠時、寝不足が続いた時、ストレスがたまった時、ビタミンB6,B12,C,の摂取が足りない時炎症が起こりやすくなる。
体全体の体力(免疫力)が弱っているので、自分における原因と改善方法を考える必要がある。
そして、「うがい」をすることを心がけ、口の中に入った細菌を口から出し、いつも清潔にしているようにする!
  (漢方薬)
ビタミン欠乏症(VB6,VB12,VC)が原因の場合は、まず、ビタミンの補給をする。
       ステロイド剤を用いない時は

ファーストチョイスとして、半夏瀉心湯を用いる。
口内炎を起こす人は、比較的胃腸が弱く、精神的に不安定な人が多いので、胃腸機能を改善しながら、半夏の作用で精神的に、落ち着かせることにり、二次的に炎症を治えることを目標としている。
その他には

半夏厚朴湯、加味逍遙散、黄連湯、温清飲、葛根湯等が用いられている。

半夏瀉心湯

  処方:半夏 5.0 人参  2.5  黄ギ 2.5 黄連  1.0甘草 2.5  干姜  2.g 大棗 2.5 

 

   口腔乾燥症

お年寄りは、唾液の分泌が減少するにで、口の中が著しく乾くことがあり、そういう状態を口内乾燥症という。
  (原因)

唾液の分泌は精神状態にも影響され、恐怖感や緊張感、ノイローゼなどにより分泌が低下することがある。また、高熱を出した時や下痢や嘔吐のために脱水症状となった時、尿崩症、糖尿病、尿毒症、貧血等が原因の時がある。高齢者の場合では、老化によって、唾液腺が萎縮するために起ることもある。
   (漢方薬)


原因となる疾患がある場合には、まずその治療を先に行う。

乾くという関点から滋潤作用のある漢方薬の
麦門冬湯、白虎加人参湯が効果がある。
また、
小柴胡湯、加味逍遙散も用いられることがある。
 
何が原因でも、口腔の粘膜は、細菌に感染しやすいので、繁茂にうがいをして口の中を清潔に保つと同時に湿らせておく必要がある。

唇が荒れ、口の粘膜がカサカサな場合は、紫雲膏どの漢方軟膏などを塗る。

     舌痛症

炎症や原因となるような疾患が特に認められないが、舌にヒリヒリした痛みを感じる。
40-50歳代の女性に多くみられる。食事中や何かに熱中している時には痛みを感じない場合が多いのが特徴。
舌痛症に関しては
いろいろな定義ずけがあるが、ここでは、下記されているような、身体的病変(アフタ、地図状舌、扁平苔癬などの器質的病変)を除いたものについて、取り扱う。

    「狭義の舌痛症診断基準 (慶応大学 医学部 :1989年)」
1.舌に表在性の疼痛あるいは、異常感(ヒリヒリ、ビリビリ、チリチリ、ザラザラ、シビレル)
   を訴えるがそれに見合うだけの局所あるいは全身性の病変(鉄欠乏性貧血、
VB12欠乏、
   糖尿病、口腔乾燥症などによる器質的変化がない)が認められない。
2.疼痛あるいは、異常感は、摂取時に軽減ないし消失し増悪しない。
3.経過中に以下かの3症状のうち少なくとも1症状を伴う。
 A:.癌恐怖
 B: 正常舌組織を異常であると意味付けて訴える。
 C:舌痛症状を歯あるいは保存補綴物などと関連ずけて訴える。 
4.うつ病、精神分裂病など内因性精神障害の経過中に出現したものではない。
 
口腔内の器質的、機能的障害、補綴的障害の存在がある場合は、
必ず、歯科的治療(保存、補綴、外科的治療)を行う必要がある。
     (漢方薬)

一般的には、向精神薬、鎮痛剤などの薬物療法が行われる。

漢方薬では
舌痛症の場合舌の痛みばかりではなく、自律神経失調症を伴っているケースが多いので、
柴胡加竜骨牡蛎湯、加味逍遙散、四逆散、小柴胡湯、柴朴湯、半夏瀉心湯が用いられている。

腎虚症には

六味丸、八味地黄丸などが用いられている。

    舌診
舌側縁部が痛む場合は
肝胆が病んでいることであり肝気うっ血の病態に近い。
肝気うっ血に対する漢方の基本方剤として

四逆散、加味逍遙散を用いられている。

舌尖部が痛む場合は

心と小腸が病んでいることであり心熱をとる
清心蓮子飲、酸棗仁湯を用いると効果を上げるケースがある。

四逆散

  処方: 柴胡 5.0  芍薬 4.0  枳実2.0  甘草1.5

  「歯科領域での漢方処方」

        一般的に歯科
治療に使われている漢方処方

疾患名

実証

中間証

虚証

口臭症

黄連解毒湯

黄連湯

六君子湯

口内炎

インチンコウ 黄連湯
半夏瀉心湯
半夏瀉心湯

 歯槽膿漏 

黄連解毒湯  排膿散及湯 十味敗毒湯

  舌痛症 
(口腔心身症)

柴朴湯 小柴胡湯  加味逍遙散

三叉神経痛
(顔面痛)  

葛根湯 枝加朮附子湯 枝加朮附子湯

歯痛

立効散・麻黄湯 立効散 立効散

口渇

白虎加人参湯  五苓散 五苓散

   歯根膜炎 

葛根湯 白虎加人参湯 立効散

術後

補中益気湯 補中益気湯 十全大補湯

*現在、歯科疾患に保険適用が認められている漢方製剤は
立効散、半夏瀉心湯、黄連湯、インチンコウ湯の4剤のみである。
大学病院、病院歯科では、舌痛症は、難治性疾患として保険請求されているようだ。


      食べ物

「ナスのヘタ」(ナスの黒焼き)


黒焼きとは
薬草や食べ物を密閉した容器(フライパン、ホーロー鍋)に入れて蒸し焼きにして、黒く焼いたもの。
この黒焼きは、カビが生えたり虫がついたりしないので、保存に便利。

ナスには
ポリフェノール(フラボノイド)、アルカロイド、ルチン、アントシアニンなどの成分が含まれ、消炎・殺菌・止血・血行促進の効果があると1/19のTVで紹介された。

作り方


1.ナスのヘタをぶつ切りにする→2.陰干しをする→3.乾燥したナスのヘタを土鍋、又は、フッソ樹脂加工のフライパンに入れ、弱火にしてふたをして2〜3時間程度煙がでなくなるまで加熱する。4.火を止め、冷めてからフタを取る。すぐにフタを開けてしまうと、せっかくの蒸し焼きが燃えて灰になってしまうことがあるので、気をつける。5.このこげあがった黒焼きをすり鉢で、粉末状にして、密閉容器に保存する。

使い方

歯周病の場合は
 
ナスのヘタの黒焼きに「お塩」を混ぜて、それで、朝晩、歯肉をマッサージするようにすり込む。
口内炎の場合は
 
ナスのヘタの黒焼きに「蜂蜜」をまぜて、それで、朝晩、歯肉をマッサージするようにすり込む。
  黒焼きをそのまま食べたり、粉末状にして飲用することもある。

   

ビタミン、ミネラル、繊維群  ビタミン、ミネラル、繊維群をバランスよく、多く含んでいる食べ物を摂る。
 小松菜、あしたば、春菊、モロヘイヤ、ほうれんそう

ハーブ

ラズベリー」(V.Cが多い)のハーブteaとして飲む

 ペパーミント
ハコベ、アロエ等もハーブteaとして飲む。


     


      民間療法    ーよく効く民間療法(伊沢凡人著)よりー
   

スイガズラ スイガズラの葉には
渋みがあり、歯根炎や歯周病にはよく効きます。7〜
8%の煎じた液を冷やしてから含みうがいを繰り返します。30分ごとにやれば、1日に30回はできます。濃度は10%程度に濃くしてもかまいません。
歯根病や歯周病の場合、その局所は、漢法でいう、水毒状態にありますから水分の摂取を慎み、発汗療法を行い、うがいを併用すると、一層効果があがります。
みそ灸 歯痛の時に
歯痛のツボに厚み2〜3ミリぐらいをのせ、アズキ位のもぐさを置き線香で火をつける。

      ※注意
      
いろいろな民間療法や食事療法があるが、限界があるのでできるだけ歯科医に診てもらうこと。
      

  *ご意見のある方、質問のある方は、ご一報を!
             
                E-mail : sagamikanpou@nifty.com