西洋人参:ウコギ科 アメリカニンジン
     ( Panax quinquefolium )


西洋人参は、滋養薬に分類され、身体虚弱状態の機能低下を補う。
ニンジンと西洋人参の異なる点は、服用後の体感にあり、ニンジンは体を温め、西洋人参は清熱的に働く。別名「アメリカ人参」「洋参(ようじん)」「花旗参(かきじん)」と呼ばれる。花旗参(かきじん)とは、アメリカに自生していた野生の人参を見つけた時に、アメリカの国旗(花旗)にちなんで花旗参(かきじん)と命名したそうだ。西洋人参は、地上部は、人参と似ているが、根は人参より小さく蘆頭も短くて細い。

アメリカ、カナダの森林地帯に自生していたが、乱獲により希少植物になった。しかし、最近は、中国でも大々的に、栽培されるようになり、広東人参、包参とも呼ばれるようになった。
   
  

“しにか”より抜粋

「薬局の中で一番にぎわっていたのが、“西洋人参”を売っているコーナーであった。なぜ高麗人参でなく“西洋人参”なのか?それは、たぶん、高麗人参は体を温める傾向があり服用後に、のぼせやほてり感を生じる事もあるが、西洋人参は清熱的に作用し、のぼせなどは少ない。そのため、病後、術後や体力の消耗の激しい時などには、穏やかに作用して徐々に体力を取り戻してくれる。その穏やかさがとても好まれているのかもしれない。
中国には「冬令進補」といわれる独特の養生法がある。冬の間にエネルギーを貯え春から夏にかけて病気にならないようにすることである。そんな考え方からなのか、冬には特に、西洋人参を好んで飲まれているようである。大きめのフタのついたグラスやコップに“西洋人参”の刻みを一つかみいれ、湯を注ぎ、それを自分の家や、仕事場においておき、ノドが乾いたときに一口、二口、飲むのである。日本では、あまり見かけない光景である。それと、中国は“生水”があまり良くないため、生水を飲む習慣がない。それで薄味で穏やかな西洋人参茶を好んで飲む人が多いのかもしれない。」…。
   

西洋人参:ウコギ科 アメリカニンジン(Panax quinquefolium)

薬用部位

根を陰干しで乾燥

性味

苦・微甘・涼

薬能

補気養陰・清火生津(熱病後の倦怠、口渇)
補肺降火止咳(慢性の咳、呼吸困難、血痰)
人養胃生津(口渇、舌の乾き)

応用

虚弱者、疲労倦怠無力、虚熱
呼吸器疾患
慢性疾患

用量

1〜10g/日(煎服)
   
飲み方

中国においては容器のなかに、西洋人参の刻みを 適量入れ、温湯を注ぎしばらく放置しておく。そして、それを適時、お茶代わりに何回かに分けて飲む。
人参茶」を飲む中国人
   

西洋
人参について

本草従新』において
「肺を補い、火を隆す。津(唾液のような体液成分)を生じ、煩(イライラ)倦(だるさ)を除く。虚して火(熱症、陽症)の者に適している」と書かれている。

医学衷中参西録』において
「気分を助け、血分を補益し、その性質は涼で補を為す。人参を用いる状況で人参を温補を受けないものは、西洋人参を以って代わりとする事が出きる」と書かれている。


西洋人参は、涼性でのぼせる事もなく、体力の低下したお年寄りや、病後、術後、疲れているヒトには、穏やかに、気を補い身体を潤してくれる。その性質が穏やかであり、四季を通じて老若男女誰に対して利用できるため中国においては非常に人気のある健康食品の一つにあげられている。現代人には、疲れているが、いらいらやストレス、ほてりがあってなかなか眠れないというような人が増えている。その点西洋人参は、清熱的に心身のバランスをとりながら疲れを取ってくれるので、精神的疲労の多い現代人にとっては、ぴったりな健康食品の一つである。

 
  -讀賣新聞日曜版 -『漢方漫歩』 -1995/12/17-

「補剤で力蓄える"未病先防"を」           


自然界には、春は生(生成)、夏は長(成長)、秋は収(収穫)、冬は蔵(貯蔵)という規律がある。例えば、冬眠中の熊が、何も食べないのに体重が減少せず、かえって増える場合もあることからも、冬は貯蔵・蓄積の季節であることが分かる。このため中国には「冬令進補」といって、補剤(滋養剤)は冬季に服用するのが効果的だという考え方がある。
さらに、「補在三九(補は三九に在り)」「三九補一冬、来年無病痛」といって、冬至の日から数えて3×9=27日の間に滋養剤を服用し、十分なエネルギーを貯えておくと、次の年は病気にかからないという民間伝承もある。
このため、冬至の日には、漢方薬局や食料品店の店先に、贈答用のさまざまな補剤がいっせいに並ぶことになる。
補剤といえば、かつては朝鮮人参や鹿茸(シカの袋角)、竜眼肉などの体を温める滋養剤がその代表格だったが、最近は西洋人参のように体を冷やし、潤しながら元気をつける補剤に人気が移っている。
これは、このところの経済成長によって、豊かさからくる高カロリー食品の過食、暖房の使い過ぎ、都市化に伴う精神的ストレスの増大といった要素が積み重なり、体内に熱がこもり、体液を消耗しやすい状況になっていることが一つの原因と思われる。今後、日本でも冬至の日に、西洋人参のような滋養品を、さりげなくプレゼントし合うような"未病先防"の習慣が根づいていってほしいものである。

             袁 世華(中国・長春中医学院教授)
  
  -讀賣新聞日曜版 -『漢方漫歩』 -1994/9/25-